第9章 ✼赤熊百合✼
「なんで私ばっかり……」
迷惑をかけているのは私の方なんだから、少しは我慢しなきゃと思ってた。
でも、どうして私ばかりこんな目にあわないといけないんだろう。
「私が悪いの……?」
家康がいることも忘れて、今まで胸の奥に押し留めていた言葉が溢れてくる。
「私が油断しなければ刺されることもなかった。そんなの分かってるよ……でも……」
「結……」
「芝姫が居なかったらいい話じゃない!どうして私が悪役なの?!」
家康が静かに抱き締めてくれる。
とめどなく溢れる涙が、家康の着物に染みを作った。
「こんなになっても……どうして思い出してくれないの……」
謙信様に思い出して欲しい。
前まではそれだけを考えて毎日を過ごしていた。
だけど、今の私は一人では何も出来ない。
「普通の生活に戻りたい……」
前みたいに、城下に行って自分で反物を選びたい。
針子さん達とお喋りをしながら仕事がしたい。
政宗と女中さんの料理を手伝いたい。
姫としては少しお転婆な事をして秀吉さんに世話を妬かれたい。
家康と三成くんのやり取りを見ながら、笑って皆とお酒を呑みかわしたい。
信長様の少し無理な命令も、今となっては恋しいとすら思ってしまう。
「俺が助ける」
私はこの優しくも力強い腕に頼りきりで良いのだろうか。
家康は、私が落ち着くまでそのまま傍に居てくれた。