第9章 ✼赤熊百合✼
まだ少し痛みが残る傷跡に触れる。
「分からない。でも……多分残ると思う」
「……そっか」
自分がされたこと、そして今自分が謙信様に対してしていることを忘れないためにはちょうどいいだろう。
「俺はこの後軍議があるからもう行くけど、何かあったらすぐ女中に言って」
「ありがとう……」
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それからの日々は、特に変わったことは何も無かった。
相変わらず食欲も戻らず、部屋に一人きりになると泣いた。
刺されたショックで見知らぬ人に会うのも怖くなってしまい、城下にも出れなくなった。
一ヶ月くらい経っただろうか……。
もう日にちも数えられなくなっていて。
「結様、今日もこちらに置いておきますね」
女中さんは、何も出来ない私の身を案じて毎日綺麗な生け花を送ってくれる。
(今の私は見られたくないな……)
女中さんと会いたくない訳では無いし、むしろ有難いと思っている。
この城に帰ってきてから体重もかなり減ってしまった。
好きだからこそ、こんな姿を見られたかなかった。
私が何とか正気を保てていたのは、この花と家康のおかげ。
毎日私の様子を見に来てくれる家康の存在も、私の心を支えてくれていた。
「結、入るよ」
今日も家康がやってくる。
私も流石に外の空気が吸いたくなってきた。
「少しだけ、外出たい」
重い体を無理やり持ち上げ、歩きだそうとした。その時……
「……っ?!」
急に視界がぐらりと揺れる。
(何、これ……)
「結!」
家康が咄嗟に私の体を抱きとめてくれる。
「結、大丈夫?!」
(嘘……)
自分の体がここまで酷い状態になっているなんて。
とうとう自分で立ち上がって歩くことすら出来なくなってしまった。
「なんで……」