第7章 ✼月見草✼
徳川に手当をしてもらってしばらくすると、結はうなされながらも眠りに落ちていった。
「多分二日くらいはこのままうなされてると思う。でもそれを乗り越えたら大丈夫だよ」
一通り手当が済んだ後、厳しい視線が注がれる。
「……で。きっちり説明してくれる?背中、傷だらけなんだけど」
この事を話せば安土の奴らはもう結を謙信の傍に帰さないかもしれない。
結はきっと謙信と離れることを望まないだろう。
だけど、時には望まない選択をした方がいい時だってある。
「勿論。全て話すさ」
何より、目の前の猫っ毛の男は結が最初に刺された時も異常なほど動揺していた。
顔には出さなくとも、謙信と同じくらい結を心配していたこの男に隠しておくのは無礼だろう。
「謙信がな……結の体を木に打ち付けたんだ。その時に傷が開いてしまった」
「打ち付けたって……本当に謙信様が?」
これには謙信の家臣である佐助も驚いたらしい。
謙信は女嫌いだが、女に手を上げることはほぼ無かった。
「俺が来た頃には既に結が倒れていたからこればっかりは直接結にき聞かないと分からない」
「……ぅ…」
うなされる結の額を拭く徳川を見ていると、どちらが恋仲かわからない。
「そもそも、大事にはならなくても謙信が結を拒絶する事は今までにもあったんだ」
それから少しづつ、今までにあったことを包み隠さず話した。
生け花の事、酒を持っていった時のこと……
そして自分が恋仲だと嘘をついたこと。
「謙信は結が自分にとって大切な何かだとは気付いてる。だけどそれが何か分からなくて苛ついてるんだ」