第7章 ✼月見草✼
「信玄様……?!どうしたんですか?!」
城へ戻ると、たまたま出くわした幸が駆け寄ってきた。
「話は後だ。とにかく結の部屋へ」
部屋へと急ぎ、結を降ろすと自分の手には大量の血がついていた。
「まさか賊に……!」
「これは謙信がやったものだ」
「……?!」
幸は言葉を失った。
「すまない、結」
再び結に謝ってから、帯を解いて着物の袷を開く。
できるだけ腹以外の場所は見えないように開くと、そこは予想通りになっていた。
「傷が、開いている」
結だって完全に傷が治り切った訳では無い。
先程ので刺された時の傷が開いてしまっていた。
そこから血が流れ、そのせいで高熱を出してしまっている。
「幸。俺が応急処置をしておくから佐助を呼んできてくれ」
「わかりました!」
布で傷口を塞いでから、結の額の汗を拭った。
もう結の近くに謙信を置いておくことは出来ない。
すぐに帰ってきた幸と佐助に、意を決して告げた。
「結を安土へ帰す」
これしか方法がなかった。
結が謙信の傍に居たいと言うから黙っていたけれど、こうなっては仕方ない。
「籠だと目立ってしまう。結には無理をさせるが馬で連れていく。今すぐ用意してくれ」
二人は反対しなかった。
黙って頷き、すぐに馬を用意してくれた。
信頼出来る女中にしばらく城を留守にする事を伝えて、全速力で、でも結にできるだけ負担がかからないよう馬を走らせる。
「結、もう少しだけ頑張ってくれ」
「ぅ…しん、げんさま……」
幸い賊に見つかる事もなく安土城へと辿り着いた。
「つってもここ一応敵地ですけど……」
「俺が説得してきます」
説得は佐助に任せて、少し離れた所で待っていると血相を変えた徳川家康が走ってきた。
「とりあえず入って。信長様には俺から説明しておく」
「悪いな」