第7章 ✼月見草✼
§ 信玄Side §
謙信が城から出て行くのをたまたま見かけた。
まだ完全に治りきっていない謙信を心配して、後をつけた。
だが、どうだろう。
そこで見た光景は謙信が結を木に打ち付けている姿。
謙信はもう理性を保てていない。
(まずい!このままでは……!)
そう思った時には遅かった。
結の体は芝の上へと倒れ込む。
あぁ、ダメだ。
これ以上は。
結が壊れてしまう。
(すまない、結……)
心の中で呟いて、俺は嘘をついた。
「この女は俺の恋仲だ」
謙信はあっさりと信じてしまった。
言ってやりたいことは山ほどあるし、一発殴らないと気が済まない。
(その前に結がもうまずいな)
少し触れただけで分かるくらい体が熱い。
きっと高熱を出している。
「結、ごめんな」
結にだけ聞こえるように謝罪の言葉を口にして、結を横抱きにする。
再び城へと足を向けてからは、一度も振り返らなかった。
今頃自分がした事の重大さに気付いているだろうが……それに気付かれてもかける言葉はない。
(言いたいことは山ほどあっても……かける言葉はないな)
今謙信が後悔しているのは、俺の恋仲を傷付けたということ。
自分の恋仲を忘れていることには気づけていないのだから。
(もう限界だな……)
また一つ新たな決心をして、俺は城へと急いだ。