第7章 ✼月見草✼
§ 結Side §
「結、いるか〜?」
数日後、針子の仕事をしていた私の元を信玄様が訪ねてきた。
「どうぞ、入ってください」
手に持っていた針をしまってから信玄様を出迎えると、信玄様は酒瓶と二つの徳利が乗ったお盆を手に持っていた。
「それは……?」
「見ての通り酒だ」
「それはそうですけど……」
今は真っ昼間だ。
生憎私には昼間からお酒を嗜む趣味はない。
「実はな、この酒は謙信のお気に入りなんだ。目が覚めてから酒を飲むこともできてないからな」
「はあ……」
首を傾げる私に、信玄様がニヤリと笑う。
「これを謙信のところに持って行って欲しいんだ」
「私が、ですか?」
「俺は今からどうしても欠かせない野暮用がある。謙信と酒を飲む事よりも大事な用だ」
有無を言わさず私の手にお盆を乗せ、信玄様は満足そうな笑みを見せた。
「そういう事だから、頼んだぞ」
もはや隠す気もない信玄様の気遣いに心が暖かくなる。
確かにお花は無理でも、大好きなお酒なら受け取ってくれるかもしれない。
(正直また拒絶されるのは怖いけど……私が避けていたら何も思い出してくれないよね)
キリのいいところまで仕事進めてから、私は謙信様の部屋へと向かった。
「失礼します……」
謙信様の部屋に入るのは緊張するけど、安心する。謙信様の匂いがするから……。
同じ部屋で生活していたこともあってか、謙信様の匂いを覚えていた。
いつの日か、謙信様に言われた言葉を思い出した。
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「お前の匂いは落ち着くな」
「そうですか?私はあんまり分からないですけど……」
「自分が纏う匂いなど本人は気付かないものだ」
そう言って私に頭を預ける謙信様。
謙信様は疲れている時は私に甘えてくれる。
「それを言ったら謙信様の匂いも落ち着きますよ」
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