第7章 ✼月見草✼
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結がいなくなり、静かになった部屋で信玄は一人生け花を見つめた。
その花言葉の意味を知ってか知らなくてか、遠慮がちに隅っこで咲く月見草。
「打ちあけられない恋、か……」
花の匂いが鼻をくすぐり、結の気持ちが伝わってくる。
本当は受け取って欲しかった。
ありがとうと言って頭を撫でて欲しかった。
なのに、謙信はあろうことか受け取ることすらしなかった。
「今のお前にこの花を受け取る資格は無いな」
結は謙信の人柄も変えた。
だからこそ、出逢う前の謙信にこの花を受け取る資格はない。
聞くところによると、結以外の女性に対しても、家臣に対してもかなり冷たい態度をとっているらしい。
「早くもとの謙信様に戻って欲しいですね……」
「えぇ。結様も私達に見せないだけで心を痛めておられます」
この前、女中が集まってそんな話をしているのを聞いてしまった。
謙信は決して嫌われているわけではなさそうだが、皆が元に戻って欲しいと願っている。
信玄は勘づいていた。
このままでは、謙信が結を大きく傷つけてしまうのも時間の問題。
それを止めるには、謙信が記憶を取り戻すか二人を引き離すしか方法がない。
だが、結が謙信のそばにいたいと望むなら方法はただ一つ。
「取り返しのつかないことになる前に戻ってくれよ……」
二人の明るい未来を祈り、可憐に咲き誇る花にそっと口付けた。
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