第12章 仕事仲間
マヤで埋め尽くされた、ひとひらの紙。
「……重症だな、これは」
普段は沈思黙考のエルヴィンだが、図らずも出てしまった自分の声に驚いている。
そんなエルヴィンを尻目に、ハンジは話をつづけた。
「でさ、この “マヤ” の正体を突き止めてやろうってミケと決めたんだよ」
「普通なら好きな女の名前だろうけど…、あのリヴァイだからね、殺したい相手の名前かもしれないし。この目で確かめないことにはね」
「そこで尾行したら、小さな公園で女の子とブランコに乗っていてさ、その女の子が マヤだったって訳。リヴァイったらもう一目見てわかったよ。その子にメロメロのメロンちゃんだよ! なぁ ミケ!?」
「あぁ、おまけに… 彼女は処女だ」
ミケはマヤの匂いを思い出し、ニヤリと笑った。
「ってことでエルヴィン、とても期日内に完成させられそうにないんだ。思い切って発売延期にした方がいいかもしれない」
「……わかった。その方面は私の方で対処しておく」
「よろしく頼むよ~、リヴァイには困ったもんだ」
ハンジはやれやれといった様子で首を振りながらソファから立ち上がると、社長室を出ていこうとした。
「待て、ハンジ」
「なんだい」
「この紙は、一体誰が復元したんだ?」
エルヴィンは、ハンジが証拠物件Aだと置いた先ほどの紙を手に訊いた。その答えは訊かずとも… わかってはいたが…。
「あぁ それかい? 勿論モブリットだよ!」
「まぁ そうだろうとは思ったが…。ご苦労だったと伝えておいてくれ」
モブリットはハンジとは中学の生物部で先輩後輩の関係だったらしく、それ以来 忠実に彼女に仕えてきた男。
今は籍は入れていないが事実婚だと言うので、No Nameの…というか ハンジ専用のマネージャーの職務を与えている。
ハンジの暴走を止められるのはモブリットしかおらず、エルヴィンも彼の力量を認めている。
……しかし事実婚だと明言するハンジだが、どうもハンジとモブリットの男女の営みを想像できない。
フッ… 大きなお世話だな…。
エルヴィンは、出ていくハンジとミケの背中を眺めながら自嘲した。