第8章 職業
「でも、安心しましたよ~」
重苦しい空気を変えたい一心で、マヤは話し始めた。
「リヴァイさんも人並みに忙しかったんですよね? 毎日平日の夕方に来るから、もしかして無職? ニート? 引きこもりの危ない人? とか思っちゃいました。あ! 引きこもりだったら外に出ないか~、あははは」
乾いた笑いが、虚しく口から空に昇っていく。
「お仕事だったんでしょ?」
「……そうだ」
「ほら良かった!……あ、でもまた暇になっちゃったのかな… ここにいるってことは…」
「いや、普段は夜に仕事をしている」
「そうなんですね~ あははは」
……仕事が何か訊きたい衝動に駆られたが自制した。変に詮索して、鬱陶しいと思われてはいけない。
いつもより不自然な様子で笑うマヤを、リヴァイは訝しげに見つめる。
「マヤ、どうした」
「はい?」
「さっきから… お前、変だぞ」
「そんなことないですよ~ あははは」
リヴァイは へらへらしているマヤを睨みつけた。
……うっ。
リヴァイの冷たい視線に へこたれそうになるが、マヤはつづける。
「夜にお仕事だなんて大変ですね。リヴァイさん ちゃんと寝てますか? 寝不足だから目の隈がすごいんですね~」
「………」
「こんなとこに来てないで、ちゃんと寝た方がいいですよ」
「あ?」
「……前に 私に会いに来るのは暇つぶしだって言ってましたよね」
「……あぁ、そうだ」
「リヴァイさんの目の隈が心配です。暇つぶしだとか言ってないで暇なときは休んでください」
リヴァイは ゆっくりマヤの方を向いた。
「それは… 来るなってことか?」
「まぁ そうですね。暇つぶしなんかより睡眠の方が大事です」
「……チッ」
舌打ちするリヴァイに、マヤは思わず笑みがこぼれる。
「リヴァイさん、とにかくその目の隈と眉間の皺が取れるまでは、来ちゃいけませんよ。もし来たら追い返し…」
「おい!」
リヴァイが マヤの言葉を遮る。
「……俺は元々こういう顔だ」
「ふふ 今リヴァイさん、笑いましたよね」
「……笑ってねぇ」
「絶対笑いましたって!」
リヴァイの表情は 相変わらずの仏頂面だったが、マヤには その頬が少し緩んだように見えた。