第7章 不在
二人は、公園のベンチに座っていた。
結局マヤは、リヴァイに何ひとつ言いたいことが言えずにいた。
公園に来るまでにリヴァイと交わした会話といえば、マヤの参考書に挟まれていた「ハンブルク・フィルハーモニー管弦楽団」の来日公演のフライヤーを見たリヴァイが、行くのか?と訊き、マヤが “はい” と肯定したほんの二言、ただそれだけ。
……気まずい。
公園の前まで帰ってきたときに、なんとなく顔を見合わせ公園に入りベンチに座ったのだが、二人の間には沈黙が流れている。
マヤは、とうとう声を絞り出した。
「リヴァイさん… なんだか久しぶりですね」
「……そうだな」
「……どうして 先週来なかったんですか?」
リヴァイはマヤの目をまっすぐ見てから、何か言おうとその薄いくちびるをひらきかけたが… また閉じてしまった。
答えたくないんだと理解したマヤは、慌てて言葉を継ぎ足した。
「あっ 別にいいんですけど。全然気にしてませんから」
……気にしていないなんて大嘘だ。でもそう言わないといけない気がした。
そもそも私とリヴァイさんはなんの約束もしていない。リヴァイさんが私に会いに来るのは単なる「暇つぶし」だ。そこが崩れて「約束」や「義務」が発生すると、リヴァイさんは… もう二度と私の前に現れない気がする。
……そんなの嫌だ。それだけは、絶対避けなければならない。
私が、リヴァイさんの「不在」を「苦痛」に思っていたことを知られてはいけない。
重苦しく思われてはいけない。
いつでも気楽に気軽に「暇つぶし」に来てもらわないと、私はリヴァイさんに会えない。
マヤは、うつむいているリヴァイの横顔をそっと見た。
白い陶器のような美しい肌にかかる黒髪。伏せている切れ長の目を覆うまつ毛は思っていたより長い。すっと通った鼻すじに、薄い小さなくちびる。
……なんて美しい人なんだろう。男性にしたら背丈は低いが、この容貌には小柄で華奢な彼の体形が合っている。
私は、ずっとリヴァイさんを見ていたい。
今望むことは、それだけだ。
そのためなら、なんでもする。
とりあえず、この重い雰囲気を変えなければ!