第16章 眠らない街
アンコールで「Dream On」「Walk This Way」と立てつづけに代表曲を演奏したあとは、ベガスなんて浮ついた場所柄の観客が一番望むエアロスミス最大のヒット曲「I Don't Want to Miss a Thing」で締めくくって、ステージは終わりを迎える。
「Thank you!」とシャウトしながら、エアロの面々がステージ上に一列に並ぶ。
スティーヴン・タイラーが 「No Name!」と叫ぶと、俺たちは待機していた袖から舞台の中央に歩き出す。
俺は大体いつも スティーヴンとジョー・ペリーに挟まれて、両手を奴らに掴まれ万歳させられる。
チッ、なまじっか背が低いせいで、大人に手を引かれた子供みてぇになるのが気に食わねぇ。
まぁ そんなこんなで濃密なステージが終わり、嵐のような拍手と嬌声の中、スティーヴンが 「Thank you! Good night!」とシャウトするのが合図となり全員袖に消えていく。
ラスベガスでおこなわれるレジデンシー公演とは、アーティストが全米各地の都市を訪れるツアーとは違って、ラスベガスのホテル内にある劇場に一定期間 アーティストが駐在し、週に数公演おこなう形式のものだ。
No Nameが、エアロスミスの “LAS VEGAS RESIDENCY 20※※” のオープニングアクトに抜擢されてから一か月以上になる。
数日おきにパークシアターでおこなわれるステージも、今晩で11回目だ。
最初は世界のエアロのオープニングアクトを務めるとあって、俺たちには似合わない緊張ってヤツもしちまったが、今ではすっかりツアーの一員として慣れ、責任を果たせている。
「Levi、Great job!」
スティーヴンが片目をつぶりながら、親指を立てた。
「You too、Steven!」
と、俺がサムアップし返すとヤツは皺だらけの目元をさらに皺くちゃにして叫んだ。
「Ha! Little boy!」
……チッ、俺が “てめぇもな、スティーヴン!” と返すと、必ずヤツは チビ坊主とほざきやがる。
やれやれ。
俺は片手を上げ、屋上へつづく階段へ向かった。