第2章 進藤ヒカル
「市河さん、こんにちは」
「あら、こんにちは。塔矢くんなら奥の席にいるわよ」
そう言って私に案内をしてくれたのは市河晴美さん。
ここ、『囲碁サロン』の受付をしている。
私は学校終わりによくここに訪れる。塔矢くんくらいしか同い年の子はいないけれど色んな人と碁を打てるし、ここにいる人達は皆優しい。
奥に行くと、塔矢くんがちょうど対局を終え、片付けをしているようだった。
「塔矢くん」
「藤波、学校での用事は終わった?」
「うん、日直の仕事でプリントまとめてたら少し遅くなっちゃった。今からでも打てる?」
「全然大丈夫。今日も互先(ハンデなしの対局)?」
「うん。絶対勝ってみせるから。」
最近藤波は互先でボクと対局する。いつもギリギリのところでボクに負けてしまうのだが。彼女曰く、「いつまでも足踏みしてたら憧れの人に追いつけないから」だそうだ。いつだったか憧れの人とは誰か藤波に聞いたことがあるが「秘密」と言われ、教えて貰えたことはない。
藤波が黒、ボクが白石を持つ。
「お願いします」
「お願いします」
────対局の末、2目半で藤波の負け。
「今日も負けた…」
「今日も惜しかったね」
「次は絶対に勝つから!」
「その台詞、前も聞いたよ」
「…まさかとは思うけどわざとギリギリで勝ってる訳じゃないよね」
「まさか。ボクもボクでいつもヒヤヒヤしてるよ」
「ほんと?なんでいつも塔矢くんに負けちゃうんだろ…」
「落ち込まないで。また打つから。」
そうやって笑いかけながら塔矢くんは碁石を片付けた。
その時、
「あ!なんだ子供いるじゃん!」
と急に塔矢くんを指差した同い年くらいの男の子。
「あいつと打てる?」
どうやら対局相手を探してるようだ。
「塔矢くん、打ってあげたら?私は今の対局の反省向こうでしてくるから」
「ありがとう。じゃあ打ってくるよ」
塔矢くんは向こうへ歩いていった。
「対局相手さがしてるの?いいよボク打つよ」
「アキラくんでもこの子…」
「ラッキーだな子供がいて!やっぱ年寄り相手じゃもり上がんねーもんな!」
「ボクは塔矢アキラ」
「オレは進藤ヒカル6年生だ」