obsidian is gently shines
第15章 今日も今日とて
「ふんふんふ~ん♪」
きゅっ きゅっ きゅっ
もうそろそろ二時になろうかという頃。
昼食をすませたナナバは、レースのカーテン越しにさらさらと降り注ぐ陽光の中、自宅二階の廊下を拭き掃除していた。
「よしよし、綺麗になった。
次はこっちだね」
きゅっ きゅっ きゅっ
「ふんふんふ~ん♪」
鼻歌のいいタイミングで、後方からカチャリと小さく聞こえ、直後大きな気配が現れる。
「ナナバ」
「あ、エルヴィン。
ごめん邪魔しちゃった?」
「いや大丈夫。丁度今終わったところだ」
『ならよかった』と安心し頷いたナナバは雑巾をバケツの中へ。
「休みに持ち帰る程の書類なんて、
最近では珍しいね。大変なの?」
「内容はそうでもない。
が、如何せんチェック項目が多くてね」
昼食を挟んで午前から書類と向き合っていたエルヴィン。ずっと座りっぱなしだったのだろう『背中がバキバキいってる。もう若くないな』と少々の困り顔で大きく伸びをした。
「ふふ、そんなこと言って。
相変わらず格好いいのに」
「君こそいつでも、とても魅力的だ」
揉み洗いのちゃぷちゃぷという音と共に、二人の会話は至極穏やかに続く。
「お茶のおかわり、大丈夫だった?
邪魔しないように声かけなかったんだけど…」
「それが有り難かったよ。お陰で集中できた。
あ、いや、決して君が、
邪魔とかいう事ではなく…!」
バケツから取り出し、ぎゅっと絞る。
「わかってるよ。
集中して波にのって
そのまま途切れることなく最後まで」
きっちりと二つ折りした雑巾を、床に置く。
「そういうことでしょ?」
きゅっ きゅっ きゅっ
リズミカルに響く雑巾がけの音が、立ちっぱなしのエルヴィンの耳に届く。
「ね、今度温泉でもいこっか。
エルヴィン毎日大変だもの、
たまにはゆっくりするのもいいでしょ?」
「………」
廊下に膝をつき、左手で体を支え、右手で丁寧に拭いていくその姿。
右手が左右に動く度、あわせて揺れるそれが、エルヴィンの瞳のど真ん中に映る。
「………」
「エルヴィン?」
「……、……」
ぽそりと、声にならない声がしなやかに反るナナバの背中を掠めた。
「ん?なに?」
「尻」