obsidian is gently shines
第5章 DNH企画:明日も晴れるのおまじない
「はぁ…雨具があってもこれって…」
土砂降りの中、お使いを済ませたセチアは兵舎の玄関を一歩入ったところでようやく一息ついた。
俯いて見る足元には次々と滴が落ち、つま先を落とせばぱしゃんと小さく波紋が生まれては消えていく。
「セチア、帰ったか」
フードを取り、顔を上げた瞬間。
どこかで見ていたのだろうか?と思わせるほどに絶妙なタイミングでバスタオルを持ったリヴァイが出迎えた。
「兵長!」
「濡れたな…」
「いえ、先程お預かりした郵便物ですが、ちゃんと濡らさずに出してきましたのでご安心を」
「そういう意味じゃねぇが…まぁいい。
悪かった。こんな時に」
「いえいえ、お安いご用です」
にこりと微笑んだ彼女に、『ふ』と一つ、安心したように息を吐けば、切れ長の目元、鋭い輝きを放つ黒はほのかに柔らかさを増す。
「これで足りるか?」
リヴァイは、セチアのふわふわとした淡い金色の前髪を、撫でるように拭いていく。
丁寧に。
まるで繊細なガラス細工にでも触れるかのように。
(これ…)
リヴァイの用意したバスタオル。
新品と間違えてしまう程にふかふかで、加えてなんとも言えないいい匂いがする。
おまけに、リヴァイの手つきはこの上なく優しくて…
(気持ちいい…癖になりそう……ハッ!)
思わずトリップしかけたところで、まだ勤務時間内であることを思い出した。
「もう、大丈夫です。
ありがとうございます」
「セチア」
「ん」
「…ここにいるのは?」
ちら、と右に視線を流す。
誰もいない。
ちら、と左に視線を流す。
こちらにも、誰の姿も見えない。
今ここにいるのは…
リヴァイと自分の二人だけ。
「タオルありがとう、リヴァイ」