第2章 私にできること
玉将を左斜め前にスッと出す。
(多分、、、迂闊に攻めたら、そこを狙われる)
信長様は、角行の、彼からして右側の歩を一歩前へ進ませた。
そこで私も、同じ手を打つ。
これで、どちらの角も裸だ。次の手を打つほうが、角を取れる。
つまり、信長様は、私の角を取れるってこと。
角行、飛車は大駒だ。取れたら、勝負を左右することができる。
でも。
(銀将が、いる。)
信長様の角が私の角を取れば、私の銀将が彼の角をとる。
そんな意味の無いことは、信長様はしないはず。
(信長様は、絶対に取らない。)
パチ、と小さな音がして、信長様が駒を進める。
皆が静かに盤上を見守る中、
パチ、パチ、と小さな音だけが異様に響く。
どれほどの時が経っただろうか。
一瞬の静寂のあと。
「参りました。」
私はそう言って頭を下げた。
穴熊囲いをつくり、攻めてきた駒を取り、
それでもじわじわと囲いを破られた末の敗北だった。