第2章 私にできること
「負けてしまいましたね」
長時間の対局で固まってしまった体を伸びでほぐし、息を吐いた。
楽しかった。
素直にそう思った。
それは、信長様も同じように思ってくださったらしく、
「なかなか楽しめた。貴様の有用性が証明されたな」
と言われ、舞さんがほっとしたように肩をおろした。
「ありがとうございます。負けてしまったのによろしいのですか」
「俺は俺を愉しませろと言ったのだ。俺に勝てとは言っていない」
そういえばそうだった。良かった、セーフだ。
「秀吉、幸帆の部屋を用意しろ」
「はっ」
秀吉様が部屋を出ていき、光秀さんも礼をしてすっといなくなった。
「それで、幸帆さん、未来に帰れるかって質問だったっけど、結論から言って帰れる」
その言葉に私は内心歓喜しながら、それでもまだ続きそうな佐助くんの言葉を待った。
「だけど、次にワームホールが開くのはおそらく3か月後だ」
ああ、それくらいなら全然待てる。
「わかった、それまで待てばいいんだね。ところで、佐助くんって猿飛佐助っを名乗ってたりするの?佐助は架空の人物だけど」
「よくわかったね。俺の本名が佐助なんだ。だから猿飛佐助を名乗って、忍者をやっている」
「……って、ここにいていいの?だってここ織田軍でしょ?猿飛佐助って言ったら真田軍じゃない?」
「……正解だ。まあ、まあこの世界の俺は真田軍じゃなくて上杉軍だけど。本当によく知っているな。俺は舞さんの同郷の者だからってことで目こぼしされてる。多分、先の大戦のときから。……ところで、さっきのこと、余計なことを離さずにいてくれてありがとう。助かった」
「ううん、やっぱり言わなくて正解だったみたいだね。タイムスリップ初心者だから、何をどこまで言っていいのかわからなくて」
「君は賢いな」
「本当に賢いね、幸帆ちゃん。私、猿飛佐助が真田軍だなんて、知らなかったよ。知ってたら佐助くんが敵軍の忍びだってもっと早くわかってたと思うんだけど……。
幸帆ちゃん、きっと成績もいいんだろうな。高校生?」
「いえ、中学三年生です」
「受験の年じゃないか」
「ええ、だからだいぶ焦ってます。まだ五月でよかったです。二月とかだったら人生が崩れるところだった」