第1章 可愛い嫉妬 * 黄瀬涼太
今、彼女はすこぶる不機嫌だ。
朝はこんな調子じゃなかったのに。
俺なんか怒らせるようなことしたっスかね…。
俺の胸に顔を擦り付けている一花を見下ろしながら、その原因を探す。
不機嫌になりだしたのはいつだったか。
確か、俺と大学で待ち合わせた時だった気がする。
でも、彼女を怒らせた記憶なんて無いし心当たりもない。
こうなったら、彼女に直接聞くしかない。
「一花。」
『…なに。』
よかった。
返事はしてくれるみたいだ。
「俺なんか悪い事したっスか?」
そう聞くと、
『…別に。』
と、俺に聞こえるか聞こえないかの声量で小さく呟く。
別に、って言われても正直困るっスね…。
俺にピタッとくっついている一花の体を一旦引き離し、頰を指でなぞる。
すると、まるで初めてされたみたいに顔を真っ赤に染める一花。
「一花、顔真っ赤。」
『う、うるさい。』
そのまま至近距離で顔を見つめると、さっきよりも小さな声で何かを呟く。
「ごめん、もっかい言って?」
『…嫉妬したの。』
怒ってちょっとウルウルした目で俺を軽く睨んでくる。
彼女が怒ってるっていうのに、その顔を見て可愛いなんて思ってる俺は多分バカだ。
「誰に?」
『今日大学で待ってた時、涼太の周りにいっぱい女の子がいたから…。』
「その子たちに?」
コクリと静かに頷く一花。