第2章 呑み込んだ言葉は渦の中《夢野 幻太郎》
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「おや、素羅先生じゃありませぬか」
「……ああ、夢野先生」
「ん〜?小生と出会えた日は吉日だと
言うのになんて顔をしているのです」
「そんなの、初めて聞きましたよ」
「まあ、嘘ですけど」
なんてテンポの良さ。
この男に会っても嬉しくなどない。
夢野幻太郎。
デタラメな事ばかりを口にする作家。
私は面白いとは思うが、本はあまり
売れ行きが良くなく困ってはいるらしい。
少し前は
『臓器を売られてしまうかも
しれません、まあ、嘘ですけど』
なんて言っていたから大丈夫だとは思う。
「ところで、こんなところで
立ち話なぞアレです。
どこかでお茶でもしませんか」
「アレってなんですか。
お誘いは嬉しいですが、私は今から
打ち合わせでして……」
「おやおや、そうでしたか。
それは仕方ない。
……今日の夜のお楽しみにしましょう」
夢野幻太郎はそう含みを持たせて笑う。
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