第11章 夏の約束 漣ジュン
寮に帰ると、ルームメイトがスマホとにらめっこをしていた。
「やっと働きだしたねえ」
同室の巴日和がポツリと呟く。お帰りという言葉もなく唐突に言われた言葉に驚きが隠せない。
「……何の話っすか。」
「ほら、この子」
スマホを突きつけられ、渋々受けとるとそれはネットニュースだった。
「あ、こいつ」
「うん。この前一緒にCM撮影してたよね。」
誰も、ジュンと彼女がよく会って話す仲とは知らない。同じ事務所の人間としか面識がないと思っている。
「ほら、ライブだって。」
「………」
「およそ二年ぶり。チケットの倍率大変なことになってるって。ネットワークがブリーズしたらしいよ。」
「………」
「ジュンくん!?何でそんなに反応薄いの!?」
日和がおーいおーいと顔面の前で手を振る。ジュンの頭の中はパニック寸前だった。
決まってる。
これは、彼女の意思じゃない。
常日頃から言われていたことだ。もっと働け、積極的に……と。
断れる性格じゃない。彼女は、断ることができるような性格じゃない。そんなに器用じゃない。
『誰も歩かせようとしないし、自ら歩こうともしない人間』
あの言葉が再生された。
あぁ、なんて。
なんて的を射ていたんだ。
「………俺、ちょっと」
「何!?また出掛けるの!?ねえジュンくん!!!」
“何となく”
そんなの大間違いだ。
誰も歩かせようとしない。
自ら歩こうともしない。
じゃあ、彼女は。
彼女の意思はどこにある?
歩くこともできずに立ち止まっていることが彼女の意思そのものなんじゃないのか。
ストレス過剰になるまで追い詰められた彼女に、休息の一つもないなんて。
『いつもありがとう、漣』
(意味わかんねえんだよッ!!!!!!!)
心でジュンは吠えた。
ジュンはただ、駄弁して、隣に座っていただけだ。それがありがたいなんて、馬鹿げている。
それほど苦しかったのかもしれない。あの木陰の読書時間でさえ窮屈だったのかもしれない。