第11章 夏の約束 漣ジュン
救急車を呼ぼうかとジュンが右往左往している間に、彼女は目を覚ました。
「…………お前…ドッキリか?」
あまりの白々しさに怒りさえ覚えた。しかし彼女は首を横に振った。
「…いや、忘れてくれ。」
「……何だよ、具合悪いのかよ。」
「悪くないさ。むしろ絶好調だ。」
改めて顔色を見ると、木陰ではあまり目立たないがそんなに良くはない。もともと色白だが……今日はどこか青白い。
「……………………よくあるのか」
「良くなった方だよ」
「病気か」
「そうかもね」
「やばいのか」
「仕事できないくらいはね」
「学校も行けねえのか」
「そうだよ」
ジュンは初めて彼女のプライベートに踏み込んだ気がした。それは、絶対不可侵領域のように思っていた。
自分なんかが容易に立ち入って良いものではないと。
「幻滅した?」
「何で」
「下らないでしょ。何となく事務所入って、アイドルして、病気持ちって。」
「嘘つけよ。」
「嘘って何?」
「お前が“何となく”でここまでアイドルやれるヤツかよ。本気じゃねえと無理だろ。」
否定が飛んでくると思った。いつもみたく、華麗な弁舌で。
でも。
彼女はギュッと目を閉じてすぐに顔を両手で覆った。
「…………………お前」
「ストレス過剰」
「は?」
「病院に行くと必ず言われる。自分を酷使しすぎて、ストレスで、体が限界で、気絶してしまう。」
珍しく素直だった。
「頑張りすぎてるだけだろ。そんなに落ち込むことかよ。」
「漣、今言ったでしょ。私本気なの。だから許せない。」
「……そうやってると逆効果なんじゃねえの。」
「そうだよ。」
「不器用だな。」
「そうだよ。」
「…………」
ジュンはそれ以上何も言えなかった。
かける言葉が見つからなかったのだ。