第11章 夏の約束 漣ジュン
撮影の帰りに二人は一緒に歩いていた。
海辺から遠ざかるように、海を背中にして。
「いつもありがとうね、漣」
「……またそれか?いったい何なんだよ」
「うん、まぁ。いつかね。」
二人の会話はいつも通りだ。
「…あ」
そんな会話に、非日常な音が響いた。
二人が振り向く。
「…花火か」
海の近くから上がっていた。
「もったいねえな。移動しなかったら近くで見えたのに。」
「漣はこういうの好きなのか?」
「嫌いなのかよ」
「音が不快だ」
彼女は耳を塞いで嫌そうに顔を歪めている。
「お前って雷とか嫌いなタイプだっけ」
「あぁ嫌いだ。大嫌いだ。意地悪な漣と良い勝負だね。」
嫌悪感をむき出しにして怒る彼女に、ジュンは笑った。
「怖くねえよ、俺が隣にいるだろ。」
「……いてくれるのか」
「いてやるよ。だからさ、今度花火一緒に見に行こうぜ。」
「……花火なんて見に行くものじゃないだろ」
「音が嫌なら、打ち上げ花火じゃなくて手持ち花火で良いだろ。浴衣でも着て雰囲気出したらそれっぽいんじゃねえか。」
「……うん、それなら」
少女は耳から手を離した。
「不思議だな」
花火を見上げる。
「漣。君は、本当に不思議だ。」