第11章 夏の約束 漣ジュン
仕事はCMだった。日焼け止めのCMで、海で撮影。
「日焼け止めの撮影なのに演者が日焼けよろしくなの?」
彼女がぼやく。
「文句言わないでくれます?」
ジュンがじとっとにらむ。何か話しているという体で遠くから撮影されており、二人の音声は撮影陣には届かない。
ただ海辺を歩くだけだ。彼女は日傘を指して歩いている。
「………海か」
「海だよ」
「泳いだことがないな」
「え」
ジュンはじっと彼女にみいった。色白なその姿からは確かに炎天下に泳いでいるところは想像できない。
「なら行くか?」
「君のところの愉快な仲間たちと?」
「いや…」
彼女が日傘を傾ける。
「俺と、お前で」
ジュンがそう言ったとき、さすがの彼女も驚いていた。
「……………うーん…」
何かを考え込んだあと、彼女は数歩進んだ。そしてクルリと振り返り、笑った。
「悪くないかもね」
その笑顔に今度はジュンが驚いた。
随分と絵になった光景で、CM撮影は無事に終わった。スタッフが何を話していたのかと聞いたが、二人とも決して言わなかったという。