第11章 夏の約束 漣ジュン
その女の子はコズミック・プロダクションに所属するアイドルだった。
アイドルといいながら表舞台にはあまり出ないが、人気と認知度が高い。
『積極的な活動を心がけるように』
と彼女が何度か注意されているところをジュンは見たことがある。
「疲れるだけだと思わないか。私は休みがほしい。」
気だるげに隣で言った。
汗まみれのジュンを隣に座らせ、少し距離を開けて彼女は座り続けていた。
ジュンがだいぶ落ち着いたところで仕事の話を持ち出すとこれだった。
テレビの前でもふてぶてしい態度を崩さないが、そこに惹かれるファンも多い。
「需要と供給が噛み合ってないんじゃねえの」
「供給はいついかなるときも需要を下回る。漣は欲しいものをどんなときでも全部手に入れることができたことがある?」
「ねえな」
「でしょう」
「でも、何で今回は働こうって思ったんだ?」
二人が会っている理由は仕事の打ち合わせがあるから。事務所が同じだとコラボという名目で同じ仕事をすることが多い。
学校の帰りだから二人とも制服だ。雇ってくれるがわのもとへ行くのだから正解だろう。
「そうね…相手が漣だから。」
「……」
「端的に言って楽」
「端的に言って俺に謝れ」
「文脈変だよ」
不覚にもときめいたジュンは、火照りを暑さのせいにした。
彼女はアイドルともあって顔は整っている。性格はかなり難ありだが嫌いなほどではない。
だからか、ジュンは少し彼女が気になっていた。
「さぁ、そろそろ行こう。落ち着いたか?」
「あぁ、だいぶ。」
本当はとっくの前に汗はひいていたが、この空間に居座りたかったのでジュンは黙っていた。
「…………なぁ漣」
「ん?」
鞄を背負うジュンに彼女は話しかけた。
「………いつもありがとう」
「は」
突然のことに変な声がでた。が、彼女はお構いなしに先に言ってしまう。ジュンは滲み出す汗をそのままに、小走りで追いかけた。