第3章 ねぇ、オオカミくん 大神晃牙
「あ、オオカミくん」
駅に降り立つと、同じホームに見慣れた後ろ姿が見えたので声をかけた。どうやら違う車両に乗っていたらしい。
「……………お前、こんな夜遅くまで何やってんだよ…」
「それはお互い様じゃないかね」
彼の言い分も最もだ。なぜなら乗っていたのは終電だから。
「女なんだからそこらへんは気を付けろよ」
「………私にそんなこというのオオカミくんだけだよ。ていうかさ、家から出ていくんじゃなかったの?」
「あぁ……その実、悩んでるんだよな」
オオカミくんは頭をガシガシとかきむしった。
「…………………のことも気になるしよ」
「は?」
「こんな時間に出歩く奴をほっていけねぇだろ」
私はポカンとして改札をさっさと出るオオカミくんの後を慌てて追いかけた。
「オオカミくん、私」
「…………………………………」
「……………………………バイトしてるだけだから」
「終電までかよ」
オオカミくんは睨みを聞かせて言った。
「………………夜遊びもほどほどにしろよ」
「…」
「ったく、こんな時間まで付き合わせるなんてろくな彼氏じゃねえな」
「そんな、良い人だよ。」
私はぶつぶつ言う彼の隣に大股で並んだ。彼に私の彼氏の話をしたが、それはだいぶ前。
よく覚えていたものだ。感嘆さえする。
「ふぅん、良い人ねぇ…」
「多くの言葉がいらないの。」
私は嫌みを含む物言いが何だか癪で、むきになって話した。
「沈黙が気まずくない。二人で本屋に行くとね、時間が止まったみたいなの。黙って好きな本を立ち読みして、店員がにらみだしたら外に出る。そうしたら空は真っ暗。最寄りの駅まで散歩して、ゆっくり歩く。
そうしたらちょうど終電で、彼は私の一つ前の駅で降りる。それまでは今日読んだ本の話をする。本の話はつきないから、また明日も同じことを話すんだよ。」
まくし立てるように言うと、オオカミくんは困ったように眉尻を下げた。
「……………知らねぇよ、そんなの」
のろけられたことにうんざりしたらしい。私はそれにクスクス笑い、家まで楽しい会話をして彼の隣を歩いていった。