第3章 ねぇ、オオカミくん 大神晃牙
オオカミくん。
私の家の近くに住む、一つ年下の男の子。名前は知らない。
ただ、オオカミみたいな勇ましさを……時たまわんちゃんのような可愛らしさを見せる男の子。
小さい頃は公園で遊んだし、今も会えば話す。この前は塾の帰りにばったり会って家まで送ってくれた。
『』
そのときに、教えてくれた。
『もしかしたら家を出てくかもしんねぇ』
誰の影響なのかすっかり変わった話し方に、もう違和感は覚えない。
彼がアイドルとして遠い高校へ進学することは知っていた。
なら、家から通うのは少し厳しいだろう。
『そっか』
隣を歩く、すっかり私の背丈を追い抜かした年下の男の子は頼もしい横顔をしていた。
『頑張りたまえよ、オオカミくん』
それでも精一杯大人ぶって、私はそう言った。
小さい頃のままの呼び方。彼はきっと、とっくの昔に名前を覚えられていると勘違いしているだろう。
でも私は知らない。
ここまで仲良くできる子とは思わなかったので覚える気が私になかったことは認める。
名前に執着がないし、彼も私を怒らないしで呼び方は一切変えられることもなかったのだ。