第9章 日だまりが止めた時間 巴日和
日和は凪沙に呼ばれ、あの屋敷に向かった。
中庭にの姿はなかった。
「………ごめん、日和くん」
凪沙は彼女が髪に付けていたダークレッドのリボンを片手に持っていた。
「………急に、熱を出してしまって。」
「熱?」
「………病院に行った。多分、もう帰ってこない。」
「ッ…なにそれ、どういうこと!?悪い日和!ちゃんと説明してよ!!」
日和が捲し立てるなか、凪沙は冷静に話した。
「………さんは父にどこかへ連れていかれた。それから帰ってこなかった。………さんには居場所があるんだよ。」
家族。引き取り手。里親。
色んな言い方があるも、全てにとっては他人だ。
「………お人形みたいに可愛いでしょう。だから、何も教えられずにただ鑑賞されて育ってきたんだよ。」
「は……?………………彼女は……展示品…ってこと…?」
日和は知らず知らずのうちに拳を握りしめていた。
「………その人たちがしばらく留守にするからということで、私は彼女を預かってた。………でも、もう戻ってきてしまった。」
「…………………そんな……まだ、まだ…………まだあるのに……!!」
凪沙は首を振った。
___教えたいことがあった
___まだまだ教えたいことがあった
大地を駆け抜ける爽快感、誰かと話が出きる喜びやたくさん動いた後のご飯は格別に美味しいこと。
日だまりの居心地の良さも。
屋敷の中にいたがらない理由がわかった。鑑賞物として扱われていた彼女はそれが窮屈だったのだ。
___離れていかないで
日和は彼女と初めて会った場所で、手を合わせた。指を絡めた。
祈るように、日だまりに膝まずいた。
_________どうか
凪沙がそれを見つめる。近づきもせず、声も出さず。
彼にできたのは、それだけだった。