第9章 日だまりが止めた時間 巴日和
口がきけない。音を聞こうとしない。自分な好きなものにしか興味をしめさない。
指が器用に動かない。走れない。歩くだけ。椅子に長時間座れない。家の中に入れると外に出ようと躍起になる。ご飯を食べようとしない。お箸が使えない。フォークは使える。お風呂には入る。
踊れない。
でも。
歌は歌えた。
言葉を知らないのに、綺麗に歌った。
「声は出るみたいだね。」
中庭でワンピースを傘みたいに広げてでたらめにクルクルと回っている。
歌詞もめちゃくちゃだ。
「…ラリーラー…………ルルルーール……」
それでもメロディだけは意味をなしていた。
日和と凪沙が近づくと、気配がわかるようになった。二人も興味あるものの一つになったらしい。
「やぁ、朝からよく歌うね!」
なるべくたくさん話しかけてやる。表情は変わらないが、彼女は軽やかに駆けてくる。小走りならできるようになった。
『ひ』
『よ』
『り』
『な』
『ぎ』
『さ』
二人の手のひらに名前を書いた。平仮名は元々わかっていたらしい。
凪沙はよくできました、と不器用に力いっぱい抱き締めてやる。
これが嫌なのかしばらく首を振る。
「………おかしいな、日和くんと同じことをしてるのに」
「力加減だよ。優しく、優しく……。」
日和はお手本して見せてやった。
は猫のようにすり寄っていく。