第9章 日だまりが止めた時間 巴日和
「………話しているところなんて見たことないよ」
隣を歩く乱凪沙は淡々と言った。
「………私も彼女に会ったのはほんの数回だから」
彼女は凪沙の里親、乱家の親戚で彼のいとこにあたる人だという。
あの屋敷は別荘で、少しの間だけ日本にいるらしい。外国人の親戚がいるなんて………。
「………さん、ずっとボーッとしてるし。」
「………………へ?何その、日本人みたいな名前…」
「………?日本人だよ。」
凪沙は何を言ってるんだコイツというような目を向けた。
「だ、だってあの髪と目……」
「………染めてるんだって。あとカラコン?とか言ってた」
「何あの子ぐれてるの!?」
「………外国に住んでて目と髪が黒いと目立つらしいよ。それがすごく嫌みたい。………でも鼻が高かったり目が大きかったり、顔は外国の人みたいだから黒かったときに違和感はあったよ。」
日和は彼女の顔を思い出した。確かに、作り上げた髪と目はあの顔に合っていた。
「ていうかさ、良かったの?そんな休暇中のお嬢様がいるのに僕が遊びに来ちゃってさ。」
「………日和くんならさんと会話ができるかもしれないよ。」
凪沙は抑揚のない声で言った。屋敷の回りをグルッと一周歩く散歩を終え、中庭に目をやった。
彼女はまだそこにいて、少しかがんで花を観察していた。
「………植物が好きみたいで、ずっと外にいるけど。」
「植物以外に好きなものは?」
「………さぁ。石を見せても興味無さそうだし。」
……女の子に石はないだろう、と日和は思う。
中庭で花に囲まれるをちらりと見やった。こちらには見向きもしない。
何だか気になった。