第8章 一途なワガママ 青葉つむぎ
つむぎが会いに来なくなった。代わりに、夏目ちゃんがよく家に来た。
散歩に行こうとか誘ってくれた。
「寂しイ?」
その間、全く会話はないのに一度だけそう聞かれた。
「別に」
だって私は空っぽだから。
つむぎとは彼が私に背を向けた日から一切接点がなかった。
フリースクールが私の学校だった。高校受験はしなかったから、勉強はそこでしかしない。
そこでも私は異端児扱いで、誰も話しかけてこない。
フリースクールが終わって、夕方からうろうろと徘徊する……………のを、当然両親は良しとしなかった。
『毎日どこに行ってるの?』
母は真夜中に帰ってきた私を泣きながら玄関で出迎える。
どこにも、行ってない。あてもなく徘徊するだけ。ただ、意思を持たない私には家に帰る理由もなかった。
そんな私を迎えに来るのはつむぎだった。
『帰りますよ』
その言葉が帰る理由になった。
でも、今は誰も来ないから……。
「」
そう思っていると名前を呼ばれてハッとした。
フリースクールの出口に、夏目ちゃんがいた。
「……………何で…」
私はわけがわからなかった。だって、だって、だって、これじゃあ、まるで、まるで…………。
「…ごめン。ボクらが悪いことくらいわかってるかラ、いくらでも謝るヨ。」
私はふらふらと、彼の横を通りすぎた。夏目ちゃんが私の名前を呼んでいた。
「生まれてから、何かを欲しいって思ったことなんてない……だから、謝罪は大丈夫だよ。」
振り返りもせずに言うと、彼は先に回り込んで正面に立ち塞がった。
「……………本当二、そう思ってるんだろうネ…君には一切の感情がないかラ」
「…何が言いたいの?」
「………………………………」
夏目ちゃんは少し黙ったあと、私に手を伸ばした。あまりの衝撃に教材の入った手さげカバンをその場に落とした。
「…………………夏目ちゃん、どうしたの?」
ギュッと彼は私を抱き締める。
その場はしばらく硬直していた。