第7章 だから恐怖を嫌った 乱凪沙
石で殴られた記憶がある。
『お前なんかいなければ良かったのに』
と言われたことがある。
全部一人の人間がやったことだが、まぁ知り合いとでも言おうか。
とりあえず、一緒に暮らしていた男性から受けた暴力のせいで私は男性が苦手になった。
それは凪沙さんも同じ。
「もしもし、凪沙さん」
でも。
「留守電ごめんなさい。忙しくしてるかな。」
苦手だけど。
時々、ムカつくくらい世間知らずだけど。
「私は………男性が苦手。悪夢にうなされるほど、本当に。」
でも。
「凪沙さん。」
優しくて、一途で、どこまでも私を想ってくれた。
「夢を見なくなった。本当にあなたがいなくなって静かになったよ。」
「私、もう一回夢をみたいんだ。」
「それで、夢の中のあの人に言いたいことがあるの。実はね、その人もう亡くなってるの。病気と闘って、ストレスがたまってたんだと思う。でも私、何もできなかったから。」
嘘みたいに自分が饒舌だった。
「凪沙さんがそばにいてくれないと、勇気がでないよ。」
いつも見ていた悪夢は、私なりのけじめなんだ。
凪沙さんのせいじゃなかった。
伝えたいことを伝えないと、きっと私は………………。
『お前なんかいなければ良かったのに』
石で殴られる。
『そうね』
泣く。
『私もそう思う』
『黙って殴られるだけで、ごめんなさい』
『何もできなかった私を許して』
彼の怒りは収まらない。
私は、彼に手を伸ばした。
闘病で痩せ細った体を抱き締めた。
『……辛い時…何もできなくてごめんなさい…もっと一緒に闘えばよかった、苦しむあなたを見るのが辛かったの、胸が痛かったの。
私、もっと寄り添うべきだった』
凪沙さんが私にしてくれたように………
彼の体が、スルリと私の腕から抜けていった。
待って、と手を伸ばす。
『大丈夫』
『わかってた』
優しい微笑み。
あぁ、彼のこんな顔を私は……
何で忘れていたのだろう?
『もう良いだろう、』
彼はそう残し、夢とともに去ってしまった。