第7章 だから恐怖を嫌った 乱凪沙
付き合っていないのに一緒に暮らす。
それが一ヶ月続くと、お互いの色んなところが見えてくるんだ。
凪沙さんは、私が眠るときは側にいる。近づかないでって言っても寄り添ってくる。私が眠ると彼はずっと起きて私を見守っている。
いつものごとく夢にうなされたら彼は必死に私の名前を呼ぶ。起きるまで、懸命に。
起きたら私に言葉を投げ掛ける。
“いつもどんな夢を見てるの?”
凪沙さんは最初、私に聞いてきた。うなされている自覚がなかったので何のことかと聞いた。彼が一度映像に残してくれたものを見たが、衝撃のあまり言葉が出なかった。
呻き声をあげて苦しむ私と、何があっても私から離れない凪沙さん。
いつも私がうなされている声を聞いて夜中に起きて、私の部屋に来る。一緒のベッドで寝る仲ではないので、その移動も面倒だろうに。
凪沙さんが私のせいで苦労しているのは嫌だから、もう一緒に暮らすのはやめようと言ったことがある。
私はどうやったって男性が苦手だし、夢にうなされる。凪沙さんの声だっていつかは聞こえなくなりそうな気がした。
でも凪沙さんは私のそばにいる。
それがすごく申し訳ない。
ほら
今日だって、夢はやってくる。
『お前なんかいなければ良かったのに』
私の記憶と全く同じ光景がリプレイされる。
『そうね』
でも、このセリフは私の記憶にはない。夢のオリジナル。
『私もそう思う』
泣くのも夢のオリジナル。
『黙って殴られるだけで、ごめんなさい』
夢のオリジナルがまた追加された。
『何もしなかった、私を許して』
「さん」
凪沙さんの声が聞こえた。目を開ければ、涙が落ちた。続けざまに、何粒も。
凪沙さんが私に手を伸ばす。涙を拭おうとしてくれていた。
「…………ッ…!」
咄嗟に、それを振り払った。
「………近づかないで」
手を叩く音が響いた。
「…………さん」
いつもならそこで終わる会話が、今日は長かった。
「…………もしもあなたが、他の誰かを私と重ねているのなら」
弾かれた手を引っ込めて、私から遠ざかっていく。
「…………それは私を拒む理由にはならない」