第5章 好きでしょ? 葵ひなた
私達はやっとのことでその場を移動した。帰省ラッシュとの鉢合わせは回避できた。
腰を抜かしてへたりこんだ私達は、お互いの間抜けな顔をみて大声で笑いあった。他人の目なんて気にせず、小さな頃みたいにゲラゲラと笑った。
今、家へ帰る途中にそんな笑いはないが。
「………あのさ、二人とも」
私は沈黙を破った。
「ありがと、来てくれて」
まるで俗に言う“かまってちゃん”みたいなことをした。本当は、ひなたとゆうたが来るんじゃないかって期待してあの一歩を踏み出していた。
「…………いいよ。警備員さんに聞いただけだし。」
「こんな時間に駅に行くって言うから変だな~って。」
「うん、そうでもしないと二人に会えないかなって。話たいことたくさんあったのにお店に来ないし。」
「はぁ!?それで俺達が来なかったらどうするつもりだったのさ!?」
「あー…………。」
考えてなかったと言えば二人は呆れ返ったような顔をした。
「ほんっとバカだよね……。でも、きっとそれって俺達のせい……なんだよね。」
しかし突然ゆうたがそう言った。
「……ごめんね、混乱させて。」
「………………あー……えっと…………。」
「…ふふ、ほんっとって優しい。」
ひなたは何なのかと私達を見比べていた。が、ゆうたは何もかもお見通しなのか私を責めるように話続けた。
「良いんだよ、」
「良くない…良くないよ、ゆうた。ゆうただって大切だよ。ゆうたがいてくれたからこその楽しい思い出もたくさんあるのに。」
「俺もだよ。わかってる。」
ゆうたは最後に笑った。雲一つない笑顔だった。
「明後日くらいにバイト入れてもらったから、ちゃんとお店にも顔出すって。」
「………………うん、わかった。」
私は待ってる、と告げた。
ゆうたはそのまま足の速度をあげた。
「じゃあアニキ、俺は先に帰るから!」
その言葉の意味は、ひなたにうまく伝わっていないらしく彼は大いに混乱していた。