第5章 好きでしょ? 葵ひなた
ひなたは困ったように眉尻を潜めた。
私は隣を歩く彼に、話しかけた。
「あのね、ひなた。あなた私に言ったでしょ。ゆうたのこと好きかって。」
「……うん、言った。」
「その理由にもムカついたの。あなたの都合を私に押し付けられたみたいで。」
「……………ごめん」
ひなたは声に影を落とした。暗くなった雰囲気に、今度は彼が言葉を投げた。
「でも……でも怖かった。ゆうたくんがのことを好きだったのはわかってたから。なのに…俺も好きになっちゃって……。」
夕日が痛いくらいに私達を照らす。化け物みたいに長い影がゆらゆらと不気味に揺れて動いていた。
「俺……ゆうたくんも、も大事だった。三人でバイトして、休憩室でゲームしたり音楽を聴いたりする時間が本当に大切で幸せだったんだ。
……どっちも守りたかったんだ。…ねぇお願い、わかってよ。」
ひなたは辛そうに私を見下ろした。
「わからない。」
私は、キッと彼をにらんだ。
「わからないよ、ひなた。私だって一緒だよ。君たちと思い出を作ることが本当に大切なの。ひなたが守りたいものは私にとっても守りたいものなんだよ。」
「………」
「嬉しかったよ。ゆうたの気持ちもひなたの気持ちも私は嬉しかった。」
「……っそれじゃダメなんだって!!!!!!」
ひなたは叫んだ。
「俺とゆうたくんは一つじゃないんだよ!!!好きは俺達の数だけ……っ!!二つあるんだ!!!」
「わかって「わかってないッ!!!何にもわかってないッ!!!!!」」
もはや自棄になった叫びに近かった。私は彼の声に負けないように叫び返した。
「いい加減にしてよ!二つある好きを私は選んじゃダメなの!?何でゆうたの好きを押し付けてくるの!?」
「だから………………ッ………、て…………………ぇ?」
ひなたは間抜けな声を出した。
「……………………私だって、辛かったんだから。」
「待って、…」
「“好きでしょ?”なんて言われた時の気持ちわかってくれる?」
私は真っ赤になって告げた。
ひなたも真っ赤になっていた。
空は暗くなっていくのに、私達の顔はまだまだ赤いのが、少し面白い。
私の知り合いの、大事な双子達。
彼らとの関係は、ちょっと特別です。