第5章 好きでしょ? 葵ひなた
『アニキ、そっちいない?』
ゆうたからの連絡があったことに気づいたのはひなたが帰ってからだった。逃げるように去った背中に私は何も言えなかった。
『いないよ』
私は短く返した。
『そっか』
ゆうたの返信も短い。
『ごめんね』
やたらと謝るヤツだな。
モヤモヤした気持ちのまま学校に行き、バイトをこなす。双子は顔を出してはいるようだが、どうも私と時間をずらしているらしい。
「ねぇ」
私はバイトのない日、父に言った。
「ちょっと夢ノ咲行ってくる」
大して遠くもない場所なので、父は二つ返事で了承した。
私服姿で他校をうろつくのは気が引ける。確か、警備員もいたはず。
だけどこのままモヤモヤするのは鬱陶しいし嫌だ。
ひなたとゆうたはこの時間家にいない。帰るのは夜遅いって教えてくれた。
どうしたらいいのかわからないけど、とりあえず夢ノ咲についてしまった。
………ここでうろうろするのはちょっと恥ずかしい。
アイドルの出待ちみたい。嫌だ、帰りたい。
警備員の人がチラリとこちらを見た瞬間、私は見慣れた顔を二つ視界に入れた。同じ学院の仲間と歩いていた。
その二人は、私を見たとたんに目を見開いた。
…………さすがに、友達がいるのにまずいか。
そう思って私はあたりをキョロキョロと見渡した。警備員の人に駅までの道を尋ねた。不信感をなくすためにわざとそうした。
警備員は怪しむこともなく快く答えてくれたので心が痛んだ。
私はそのまま、教えてもらった方向に走った。
ひなたとゆうたに会いたくはなかった。
空は、そろそろ黒の夜を連れてくるようだ。