第5章 好きでしょ? 葵ひなた
頭がボーッとすることが多くなった。
ゆうたの行動が理解できなかった。
あの時、私に急に抱きついてきたかと思えば“ごめん”と謝罪してそのまま去ってしまったのだ。
「………………」
あの二人はシフトが決まっているわけでもない。気が向いたら来るだけだ。
でも不思議なくらいに。
ひなたとゆうたはパタリと来なくなった。
父がやたらと心配するものだから、様子を見に行くことにした。家なら知ってる。別に特別でもない、普通の家。でもこの普通な家で双子は普通に扱われなかった。
「……さん」
そんな家から、一人の男性が出てきた。双子の父親だ。
「こんにちは。今から仕事なんですか?」
「うん、夜勤でね。」
「お疲れ様です」
適当な社交辞令を交わして、背中を見送った。
全く私に無関心だと言った態度だった。あの人変わらないな。人の父親をそんな風に言うのはいけないことだけど。
玄関先のインターホンを鳴らして、中の双子を呼ぶ。
「……何?」
出てきたのはひなただ。
「父さんからマンゴー。」
「…え………………………?」
「お店に顔出さないからよ。はい、渡したからね。」
カットされたフルーツが入ったタッパーを父親が八百屋の紙袋につめてくれていた。それをそのままつきだすと、ひなたは躊躇いがちに受け取った。
「……………ごめん」
「…………………………何が?何に対して謝ってるわけ?」
「俺…………やっぱりダメだ。」
ひなたは笑った。悲しそうに。
マンゴーありがとうと言って、そのまま家の中に消えてしまった。