第5章 好きでしょ? 葵ひなた
ひなたも小さい頃はよくこうやって私に色んなことを相談してきた。
『どうしたらいいの?』
泣きそうな顔で、何かにすがっていた。
『ゆうたくんを守りたいのに、もうわかんない』
両親のことで悩んでいた。私は話を聞くだけで、特に何かを言った記憶はない。そのうちひなたは何も相談してこなくなった。
小さい頃そんな重い話をされても何も感じなかったが、今となれば何か言ってあげれば良かったと思う。
「ゆうた」
私は項垂れるゆうたの背中に手を添えた。
「正直、私にもよくわかんないけど……。ゆうたがそんなに不安に思うなら………。話すよ、ひなたに言われたこと。」
「え………………、いいの?」
「…………………すっごく言いたくないけど、それで安心してくれるなら。」
私は素直に話すことにした。
「ひなたがね……………『ゆうたくんのこと好きでしょ?』って聞いてきたの。」
「…………………………………………………………………………」
ゆうたは長い沈黙のあと、突然真っ赤になった。
…………うん。そりゃそうなるよね。
「…………」
「………………ゆうた?」
背中に当てた手を離した。さすがに沈黙が長くて心配になった。
「ひなたにはそんなことないって言ったよ。ごめんね、やっぱり言わない方が良かったね。」
「あ、…あぁ!違う違う!!大丈夫だよ。」
ゆうたは弾かれたようにそう言って笑った。が、そこには何か影があった。
「……大丈夫…………………だからさ……………………………………………」
「…ゆうた?」
「……………あーぁ……俺、格好わる……」
私は彼の顔を覗き込んだ。
その時。
ガタッと音がして椅子やテーブルがゆれた。
座っている彼に合わせて私の体制がゆがむ。
「ゆ…………ぅ、………………た………」
突然のことに頭が真っ白になって、抵抗なんてできなかった。