第5章 好きでしょ? 葵ひなた
双子がいないとバイトは一人。あの子達も学校が忙しいらしくて、そんな頻繁に会うこともないのだが。
「いらっしゃませ」
店の扉が開いたので、反射的にそう言ってしまった。お客さんをみてから言いなさいと父に怒られるが、どうもこればかりはなおらない。
それが、ダメだった。
「………………ゆうた?」
「えっと……ごめん、いきなり」
「ううん。別に良いけど。今日バイトなかったよね?」
「あー………うん、そう。バイトじゃなくって。」
今の時間、お店に人はいない。でもこれからこみだすから用事があるなら早くしてほしい。
「………バイト終わるの待ってるから、あとで時間くれない?」
控えめなそのお願いを断ることもなく、私は承諾した。
待ってるというのは本当にそうで、休憩室にゆうたはいた。
「申し訳ないし賃金いらないから働かせてって言ったけど、無駄だった。」
「あぁ、そういうところはしっかりしてるから。」
ゆうたはヘッドホンを耳から離した。そこから少しアップテンポの音楽が流れていたが、すぐに止まった。
「……………で、何よ」
私が彼の向かいに座りスマホをいじる。反対に彼は音楽プレイヤーから顔をあげた。
「…………この前のバイトの時、アニキがなんか言った?」
「…………………………………………………あぁ、そのこと。」
スマホのSNSにひなたからのメッセージが表示されていた。
『今日の晩御飯係のゆうたくんがまだ帰ってこないんだけど、そっち行ってる?』
私はスマホを裏返して机の上に置いた。
「まぁ……言われた内容は別に良いとして、珍しくしつこいなあって思った。ひなたって気持ちを察してくれるのが上手だから。」
「…………ねぇ。」
ゆうたは、身を乗り出して不安そうに聞いてきた。
「アニキ、何て言ったの?」