第5章 好きでしょ? 葵ひなた
「ってさ、ゆうたくんのこと好きでしょ?」
いきなりそう聞かれた。
「………はぁ?」
私の父が営む中華料理屋。そこに雇われた双子の兄がバイトの休憩中に聞いてきた。
小さい頃から父が我が子のように可愛がっていたので、私も彼らのことは少し知っていた。
「だってず~っと見てるんだもん!!」
「それはお皿でジャグリングしだすからだよ。パフォーマンスとはいえ危なっかしくて。あ、言っとくけど一枚でも皿割ったらあんた達一生お店の扉叩かないでね。」
「シニカルすぎない!?」
ひなたはごめんごめん怒らないで、と両手を合わせる。私はため息をついた。
「本当に、何でそんなこと言うの。」
「だぁかぁらぁ、ゆうたくんのこと見てたから!」
「見てない。」
面倒なことを言い出したものだ。しかも全然食い下がらない。
「ちょっと、お店まで声響いてるよ~!!ちょうどお客さんいなくなったから良かったけど!!」
休憩室に入ってきたのは双子の弟。うわ、また面倒なことにと察した頃には時遅し。
「それで、何をそんなに盛り上がってたの?」
「いや~それがね、が「ひなた!!!」」
ここで叫ぶのは彼の思う壺と言うべきだろう。
いきなり叫んだ私と、ニヤニヤしている兄をゆうたは戸惑ったように見比べていた。
返す言葉が出てこなくて、私はキッとひなたを睨んだ。
「バカ」
真っ赤になっているのが自分でもわかる。そしてそのまま私は休憩室をあとにしてしまった。