第4章 守りたいもの 氷鷹北斗
北斗は、再び病院へ見舞いに行った。
「…………」
は、とぼけた顔で彼を迎えた。
「あの、誰ですか?」
の記憶は一日ともたない。半日たつ正午ごろには静かに意識を手放し、目を覚ませば記憶がない。
もう一度、病状を説明してやらねばならない。
しかし、どういうわけか根に残ったの記憶は忘れはしない。その記憶が自分のものであるとは全く理解できてはいないが……。
「あぁ、そっか。王子くんですね。氷鷹北斗くん。」
は嬉しそうに話した。
「さんと仲が良かったですよね。」
医師から説明を受けた北斗は、弱々しく微笑んだ。
親からの虐待、学校のいじめ。
まるで絵に書いたような不幸に襲われた幼なじみ。でも、笑うときは世界一の幸せ者のようで。
「…………あぁ。」
北斗は、ある決意をした。
「これ、見てくれないか。」
「何です?」
「姫の……の日記だ」
手渡された何冊もの本を、彼女は怪しむようにじっと見つめた。
北斗は、の家族から許可をもらって日記を持ってきていた。
「………知ってます、一生懸命…さんが書いてました。でも…本当は、私が書いた………ってことですよね。先生から、お話を聞きました。」
彼女は苦笑した。
北斗は、例え何があろうと幼なじみは幼なじみなんだなと思った。
自分を自分と認知できていなくても、根はありのままだ。北斗が慣れ親しんだ、幼なじみだ。
まるで次の瞬間には『ジョークでーす!ビックリした!?』と、おどけてきそうなくらい。
でも。
消えてしまった。
「……それを読んで、どうするかは君が決めてくれ。」
北斗はそれだけ言って病室から出ていこうとした。
「あの」
彼女はそれを止めた。
「さんって、私…なんですよね」
不安そうにそう尋ねてきた。
「………姫は、俺を遠ざけた。」
どんなに声をかけても、笑うだけ。
明らかに北斗を避けていたのだ。いじめの脅威が幼なじみに及ばないように。もっと早くに気づくべきだった。
北斗は振り返って告げた。
「………もうどこにもいない。」