第4章 守りたいもの 氷鷹北斗
『王子くんへ
きっとこの手紙を読む頃、私はいないんだと思います。
名前も顔も、もう思い出せません。ごめんなさい。“王子くん”という存在だけが私の記憶にあります。
わずかな記憶のかぎり、君は本当の王子さまみたいに優しくて格好よかったです。辛いとき、声をかけてくれたの嬉しかったです。ありがとう。
もう君との記憶はほとんどありません。記憶喪失なのかな。ネットで色々調べたけど、よくわかりません。
こうなる前に誰かに相談したら良かったのかな。私、そういうことは苦手です。
きっと今、すごくたくさんの人に迷惑かけてると思います。もちろん君にもね。
でも記憶がなくなる前に、言いたかった。ありがとう。本当に。
私はどこにいくのかな。記憶がなくなっても君に会えるのかな。でも、そうなっても私は君を思い出せない。
優しい王子くんは、記憶をなくした私を前に後悔すると思います。
記憶をなくしたあと、また元の私に戻れるかわからないけど………。
後悔なんかしないでね。私は君を恨んだりしないから。
記憶をなくしたあとの私にも、優しくしてあげてください。
そうしたら、その私もきっと君を恨むことはないです。
私が戻ってくるときはその子が消えるとき。
その子が消えても、君は悔いるなんてことはしないでください。
ねぇ、王子くん。
ちょっと思い出したよ。
今さら、君のことを書いてたら思い出したよ。
私の大事な幼なじみ、ほっちゃん。会いたいな。お話ししたいな。でももう、叶わないな。
王子くん。
ごめんね。
ありがとう。
より』