第4章 守りたいもの 氷鷹北斗
日記の最文章には、苦しむの本音が書かれていた。
『ふと、自分が何なのかわからなくなる』
誰かへの独白のようだった。
『私は誰なのか、今いる場所はどこなのか、たくさんの日記に書かれていたことも半分以上は思い出せない。日記を自分で書いた記憶もだんだん薄れていく。』
文字がガタガタに歪み、筆圧が頼りないものになっている。
『自分に何が起きているのかわからないけど、何かあることは明白』
文章も拙くなっていく。
『だ』
『れか』
『この日記』
『私に』
『届け』
『て』
間隔もむちゃくちゃで解読が難しい。
『おもい』
『ださなきゃ』
『いけない』
漢字がなくなった。
『ことが』
『あ』
そこから先は、文字ではなくただの線になっていた。
そのあとは白紙のページがただ広がっていた。
しかし。
「………これは」
日記の一番最後。
質素な色の封筒がとじられていた。
『もし私が記憶喪失(?)みたいなことになってたら、王子くん(ハッキリと思い出せないけど日記を見るかぎりそんな人)に渡してください』
宛名の欄を見た瞬間、北斗は日記をフローリングの上に落としてしまった。
___大丈夫か
___辛くないか
自分が幼なじみにかけた言葉は無意味に近かったらしい。
そんなことをしたって強がるだけだ。素直に助けを求めるような人間じゃない。
わかっていた、わかっていたのに。
心のどこかで他人事だとしらをきっていた。
自分が深く関わるような問題ではないと勝手に思いこんでいたのだ。
「………どこに、行ったんだ………」
今になって伝えたい言葉がたくさんあることに気づいたのに。