第4章 守りたいもの 氷鷹北斗
の叔母と実の弟は北斗の訪問を断るどころか快く招き入れてくれた。
弟とは面識があり、姉の部屋まで案内してくれた。
「すみませんね、わざわざ。掃除とかしてないんですけど。」
「…………君は」
あまりにもあっけらかんとした様子に北斗は思わず口を出してしまった。あんな姉がいるのに、なぜ飄々としていられるのか不思議だった。
「知ってますか、王子様」
小学校のとき、下級生は“くん”づけではなく“様”づけであった。
北斗はいつしかつっかかるのをやめたし、このあだ名の考案者に怒ることもなくなった。
今さら怒ったって、発案者は自分を幼なじみとさえ認識してくれない。
「人格障害は一種の防衛反応なんです。」
「……………」
「姉は今、必死で自分を守ってるんです。何がどうとか責められますか?」
弟は言葉と裏腹に北斗を責めるような口調で言った。
どうしようもないのは、皆同じなのだ。
「……持ち物、そのまんまです。読みたかったらそこらへんの読んでください。」
生活感のない部屋の本棚にズラッと並ぶ本。
「姉さんの日記です。怖くて、俺は読めないけど。」
それだけ言って弟は部屋から出ていった。
この場にいるだけでも辛いような態度であった。
がそうなら、彼も両親からひどい扱いをうけていたのだろうか。
一人残された北斗はその日記に手を伸ばした。
全てはそこに書いてあった。
『消えたい』
何もかもそこに吐き出されていた。
『いらない、私なんていらない』
北斗はその日記をいつの間にか皺になるまで握りしめていた。
_____すまない
彼にはそれしかなかった。
_____許してくれ、姫
その謝罪を伝える相手は、もうどこにもいない。