第4章 守りたいもの 氷鷹北斗
なぜ彼女がそんなことになってしまったのか。病室を出たあとで北斗は父親を問い詰めた。
「………虐待………………………?」
北斗が知らなかった、知ろうとしなかったの真実ばかりが浮き彫りに出た。
「そんな、姫の両親は……優しくて……過保護なまでにあいつを大切にしていたはずだ!」
「何事もいきすぎは微笑ましい結末を産みません。」
「………………………………じゃあ…」
父親………誠矢は息子にうなずいた。
「…………もうずっと…………ずっと」
腰かけた足の間で握られた手に力が入る。
「……………………つい、この前の裁判でようやく彼女の叔母にあたる方が、弟くんとともに二人分の親権を獲得されました。」
「……」
「……それでも…長年に渡る彼女への心の負担は止まることはありませんでした。」
「…………姫は………………姫は、学校でも」
「知っています。あの子が話してくれました。」
あの子というのは、病室にいた幼なじみではない何かのことだ。
「……………………隠すのが上手な子でした。何一つ教えてはくれなかった。」
「……………………………なぜ、父さんがそこまで姫を……」
「…………………」
誠矢はその質問には答えずに、優しく微笑んで息子の髪を撫でた。少しいやがる素振りを見せられると大人しく手を引っ込める。
「ほっちゃん」
「…………何だ」
「………………………………………………………」
父親は息子に向かって静かに告げた。
「大丈夫ですよ。」
「……………………………………………」
いつもは疎ましいはずの父の言葉が、今はそうでもなかった。
自分の父親が幼なじみを想う気持ちは、重々わかる。
___気づいてやれなかった
___何もできなかった
北斗はそれを父親に気づかれた。
誠矢は父として、息子の後悔を減らしてやりたかっただけなのだ。