第3章 ねぇ、オオカミくん 大神晃牙
「」
また、再び彼に出会った。オオカミくん。ずっと見慣れた顔、声、姿。オオカミくん。
終電からホームに降り立った私を、彼はどこかやつれた顔で見下ろした。
「……………独り暮らし、することになった」
「……………………………そっか」
私は笑った。
「頑張りたまえよ、オオカミくん」
いつかと同じ言葉を彼に投げた。
「…………………バーカ」
オオカミくんは、苦笑した。
私はその顔を見ているうちに涙がこみ上げてきた。
ずっと見慣れたその存在が消えてしまうのは、いなくなるのは寂しい。
「お別れじゃねえよ」
「…………………っ、そう、だね………」
グシッと涙を無理矢理拭った。
「ほらよ」
「わ、!」
「俺様の連絡先だ!!」
オオカミくんが放り投げた紙を咄嗟に受け取る。彼の言葉に、ハッとした。
そういえば家は知っていたけど、こういうものは交換したことがない。
「……ありがと…」
「彼氏と、頑張れよ」
「……………君もね……ッ…」
折角もらったのに、一瞬でしわくちゃになった。
私は何気ない彼との会話の時間が意識もしなかったが、大切なものだと気づかされた。
彼はたくさんの話を私にしてくれた。
「……………………電話、してもいい?」
「ハハッ、夜遅くはやめてくれよ。」
オオカミくんは笑ってくれた。
あぁ、こんな情緒不安定なやつ、今すぐ置いていってくれないかな。
でもきっと、こんな時間も最後なんだ。
そう思うと寂しくてたまらない。
「頑張れ、アイドル」
私が小さく激励を送るとオオカミくんは優しく頭を撫でてくれた。
真実を、嘘にするオオカミくん。
彼が話してくれたことは何となくわかった。
「オオカミくん」
「あ?」
「ライブ、見に行っちゃダメ?」
私は聞いた。
彼は黙って首を横に振った。
言葉のない彼は、すこぶる珍しかった。
「ステージの上じゃ、に会えねえ」
「そっか。いつでもここに会いに来て。待ってるから。」
「おう。」
彼は静かにそう言った。
オオカミくんは嘘つきだ。
君の気持ちは私に届いた、届いたよ。オオカミくん。
でもごめんね。
ねぇ、もう
会えないね、オオカミくん。