第1章 Live and let live
『この世に絶対などありえない』
そこまで目を進め、ちょうど句切れがついたので小難しい本を閉じた。
梅雨に入り早2週間。
分厚い雲と雨が空を覆っていた昨日と違い、今日は貴重な晴れ間だったが、やはりどうにもこの季節は読書には向かない。
そもそもこんな小難しい本は寝る前に読むものではなかった。大して面白くもないのに変に思考回路ばかりを刺激されて余計に目が冴えてしまう。
鼓膜に直接伝わる耳障りのいい音を聴きながらベッドで本を読む、1日の終わりの至福の時間だが、この時期になるとそれすらも惰性になりつつあった。
冷房を付けるにはいささか早く、しかし近づく夏を知らせるように気温は上がる。
開け放した窓から、いやな生ぬるい風が頬を撫でた。
何百回と聞いたプレイリストを止めると、段々と増えてきたセミの喧しい鳴き声が昨日よりも耳につく。
目が醒める度に増す暑さに自然と苛立ちを覚えているようだった。
やめよう、と心の中で小さく呟くと、耳につけていたイヤホンごとウォークマンをパジャマのポケットに仕舞い、眠気もないのにギシリと音を立てベッドに寝そべり、重たくもない瞼を無理やり閉じた。