第1章 思い出
あんなに大勢でいらしたのはその日だけったけど、その後も一人とか三人とかで泊まりに来てくれたのよ。
山桜の季節には、銀おじちゃんと高杉さんと桂さん…子供の頃から一緒にいた幼なじみなんですって。三人でお花見にいらしたわ。
桜の下でお酒呑みながら、三人とも少し寂しそうな顔をしていた。
一緒に桜を見たかった人がいるんだって、銀おじちゃんが話してくれた。
きっと、あの人達皆そうだったと思うの。
桜や紅葉や、鳥の声を、一緒に楽しみたかった人が、それが出来なくなってしまった人が、きっといるんだろうなぁって。
喧嘩したんじゃなくても、逢えなくなってしまった大切な人がね。
私が隣村のこの家にお嫁に行く事が決まった時には、高杉さんが気後れするくらい立派な花嫁衣装を下さってね。
もったいなさ過ぎて、お返しが出来ませんって言ったら、そんなのはどうても良いから、代わりに頼みを聞いてくれって言われたの。
何だろうと思ったらね。
「俺は信念とはいえ、多くの人間を殺してきた。だからきっと地獄へ行く。それは少しも構わねぇ。どうせ銀時やヅラも坂本も一緒だしな。ただ、きっと、天国で俺達を気にかけてる奴がいるはずだ。だから、お前さんがババアになって天国へ行ったら、伝えてくれ。俺の事は気にすんじゃねぇ。こっちはこっちでやっているからなって」
どうしてだろうって思った。
どうして、皆同じ事を言うんだろって。
だってね、高杉さんより数日前に、土方さんと沖田さん…真選組の方ね。も、ご祝儀を持っていらして下さって、私に同じ事を頼んだの。
優しい人が天国で心配しないように、大丈夫だって伝えてくれって。俺達は天国への道は分かんねぇからって。
だから私言ったの。私と、天国で心配してる人達と一緒に、引っ張り上げますって。蜘蛛の糸よりもっと強い紐でも帯でも何でも使って、絶対引っ張り上げますって。
そしたら高杉さんも土方さんも沖田さんも、頼もしいなぁって笑ってらした。