第1章 思い出
聞いて欲しい話があるの。
私は歳を取り過ぎて、最近いろいろ忘れてしまう事が多くなってきたから。
すっかり忘れてしまう前に、伝えておきたいの。
私ね、小さい頃に、とても強くて優しい人達に出逢ったの。
私の実家は神社を守っていてね、と言っても、由緒正しい神主とか大げさなものじゃなくて、祭の時以外は無人の神社の管理をしていただけで、本業は宿屋をしていたの。
景色だけは良い所だったから、それなりに人は来たのよ。
それと、語り部といって、昔話を伝えていく役目みたいな事もしてた。
あの人が初めて宿に来たのは、観光シーズンではない時で、他のお客さんもいない日だったわ。
私はまだ幼かったけれど、何か他の旅人とは違うなって、一目で分かった。
少しパーマかがった銀髪で、旅装束というより僧衣みたいな姿で「泊めて欲しい」の一言より先に「話を聞きたい」と言ってきた。
食堂で父さんとその人が二人で話しているのを、怖いもの見たさで戸の隙間からこっそり見たわ。龍脈がどうとか言っているのが聞こえたけど、ちっとも意味が分からなかった。
その人は父さんの話だけじゃ物足りなかたったらしくて、祖父の話を聞きたがった。
あいにく祖父は泊まり掛けの用事に出ていて、二日後に祖父が帰るまで家に泊まる事になった。
話が終わって客室へ向かう背中を見ながら、強ばった顔で父さんが「大きな業を背負った方だ」ってつぶやいたのを覚えている。
最初がそんなだったから、おっかない人だと思ったんだけど、本当は優しくて面白い人だったの。
次の日の朝に廊下で会ってから、すぐに仲良くしてくれた。祖父を待つ間、暇だっただけかもしれないけどね。
銀時って名乗ったから、私が「銀おじちゃん」って呼んだら「ちょっと、銀さんまだ夢と希望に満ちた若者だからね!少年コミックの主人公なんだから」って叫んでたわ。