第1章 i
今日も残業に追われて、家に帰ったのは本来の定時から2時間過ぎたあとだった。疲れ切った足取りでスーパーに寄り、出来合いのお惣菜を買って帰路につく。夜風が心地よく軽い足取りで自宅へ向かう。
階段を上り、部屋のドアに鍵を差し込んで開けて中に入りいつもの要領で鍵を閉めた。
私はもっと早く気付くべきだったのかもしれない。
ワンルームの部屋に靴を脱いで上がった。
電気をつけようとしたら、暗闇に影が蠢いて何かが振りかざされて顔の目の前を風が切る。
「っ……だ、だれ」
突然の出来事に誰かいるという認識の元声を上げた。
「その声は主?」
暗闇の中から知らない声が聞こえた。
「……あるじって誰ですか、け、警察呼びますよ」
「…警察?それよりも、電気つけてよ。僕暗いとあまり良く見えないんだ」
その声に従って電気をつけた。
部屋が明るくなり、すぐ目の前には得体の知れない長身の男性が居た。
しかも時代劇に出てくるような刀を持っているではないか。
「ごめんね、怖がらせちゃって」
目の前の男性は私が女だと気づくと刀をしまい、少し柔らかい表情を作り苦笑いをして謝罪を述べる。
「……っ、貴方、誰ですか」
私を見つめる彼は優しい口調で話し始めた。
「僕は燭台切光忠。刀の付喪神なんだ。いきなりこんな所に来てしまって、ビックリしてるんだけど、君が主じゃないことが確かなのはわかったよ」
「は、はぁ………」
「そしてここは何処かな?」
不法侵入しといてここは何処って何事だろうか。疑問しか浮かばなかった。警察を呼ばなかった私を褒めて欲しい。