第21章 真っ白
四季を繰り返して、初冬の強い寒気が身に染みる。
いくら経験しても寒さには慣れなくて、白い息を吐きながら手を擦り合わせる。
【慶次】
なあすず。そのカイロちょっと貸してくれよ。
【すず】
いやよ。ならこうしてくっ付けばいいじゃない。
【慶次】
それだと歩きにくいんだよ・・・・。
今日は圏内の町まで紹介で来ていた。人を尋ねて歩いていると目の前にフラフラと歩く男が目に入る。
【慶次】
すず、もうちょっとこっちに寄れ。
【すず】
ふふ。あなたも素直じゃないわね。
抱き着いていた腕を解き、男とぶつからないように肩を抱いて歩く。避けるように横切ると蚊の鳴くような声があがった。
【??】
・・・・慶次、なのか・・・・?
【慶次】
・・・・!
聞き覚えのある声に振り向くと、身なりの汚い男がこちらを見ていた。髪や顔が泥まみれで見分けがつかなかったが、だんだんと記憶が研ぎ澄まされる。
【慶次】
・・・・兄貴?
そういうと白い歯を見せて笑う。
【廉一】
ああそうだ、俺だよ、廉一だよ。ちょうど良いところに──
【慶次】
来るなッ
薄汚い手を伸ばしてきたので、すずを抱えたまま後ろに下がる。自分の背の後ろに移動させ兄貴は急に据わった目つきに変わった。
【廉一】
そう警戒すんなよ~。久しぶりの再会だっていうのにゴミを見るような目つきしやがってさ。仮にも血の繋がった兄弟だぜ?
【慶次】
今さら何の用だ。お前はもう兄貴でも何でもない。見逃してやるから早く消え失せろ。
【廉一】
ははっ、見逃してやるからだって。笑っちゃうね。金持ってんだろ~?そしたら消え失せてやらあ。
【すず】
慶次。渡しちゃダメ・・・・、
懐にあった金袋を出し、躊躇なく地面へと放り投げる。すると蠅が集ったみたいに飛びついて金袋を手にして喜んでいる。
【慶次】
二度と顔を見せるな、喋りかけるな。次会ったら牢屋にぶち込む。・・・・行こう、すず。
もう俺の中にいる兄貴は死んだ。あれは兄貴でも何でもない。早くこの場から立ち去りたくて、早足で遠ざかる。