第19章 騒動
少し急ぎ足で歩いていたが、畑の上にそびえ立つ百之助の姿を捉え、速度を緩める。
【百之助】
・・・・了解は得られたのか?
【慶次】
ああ。お袋からなんか言われたりしたか?
【百之助】
気にしてない。
そう言いつつも少し悲しそうに見えるのは気のせいだろうか。すずから後で聞き出すことも可能だが、直接本人から聞いた方がいいだろう。
【慶次】
そろそろ家に帰ろう。お前の帰る場所は、俺の家だ。
【百之助】
・・・・ああ。そうだな。
親父からはあまり目立つ行動はとるなと言われたばかりだが、少しだけ手を繋いで帰る。
百之助は俺の手が好きだと言った。あと色々好きだとも言ってくれた。
幼い時のように名前を呼ぶことは無くなってしまったけど、いつかその日まで大切に取っておくことにする。
──・・・・・・・・そして。
徴兵検査に合格したと通知が送られてくる。
入営期間は2年。
志願した兵科と入営場所に閉じ込められ、しばらく会うことが許されない時期がやってきた。
【赤松父】
立派になるんだぞ。
【赤松母】
身体には気を付けてね。
【弥彦】
百之助さん、どんどん活躍してくださいね!
【慶次】
弥彦、活躍したらまた呼ばれるだろ。百之助、ほどほどにな。
【すず】
寂しくなったら、手紙書いてきても良いんだからね。
【 】
あっ!ばっばー。
【百之助】
お前も見送ってくれているのか?
すずの腕の中に抱かれている は懸命に手を動かしており、百之助は少し優しい笑みを浮かべて、指の先を握られている。
【百之助】
それでは行って参ります。
【慶次】
百之助。
もう一度、百之助の身体を思い切り抱きしめる。
この身体を忘れないように、しっかりと。
【慶次】
帰って来ても思いっ切り抱きしめてやるからな。
【百之助】
ふん。
町内の人たちが集まって日の丸の小旗を振りながら、「バンザーイ!バンザーイ!」と声を上げながら他の聯隊に入営する若者たちを総出で見送る。
俺は零れ落ちそうな涙を堪えながら、姿を消えても声を上げ続けていた。
続く